教育業界の中でも「都立中高一貫校に強いena」として圧倒的なブランドを築いてきた学究社(9769)。直近の2026年3月期中間決算では、東京都の高校授業料実質無償化という構造的な変化により、売上高が前年比1.6%減となるなど、これまでの成長物語に影を落とす結果となりました。

しかし、株価指標に目を向けると、そこには驚異のROE 23.5%という資本効率の高さと、2028年に向けて配当性向を70%まで引き上げるという、日本企業でも稀に見る「超・還元シフト」の姿が見えてきます。

本記事では、成長株から「高利回り債券代替株」へと変貌を遂げようとしている同社の投資適格性を、直近決算の数字から徹底的に掘り下げます。

【A-評価】学究社(9769)は買いか?利回り4.3%超・配当性向70%への「超還元シフト」を分析

株式会社 学究社 (9769)

「配当性向70%」への野心的ロードマップ。ROE 23%の超効率経営。

市場:東証プライム 業種:サービス業(教育) 時価総額:約261億円 中小型クオリティ

【会社概要】どんな会社?

東京都内を中心に進学塾「ena」を展開。「都立中高一貫校受検」において圧倒的な合格実績(占有率64%)を誇るニッチトップ企業。 労働集約的な教育産業にありながら、集団指導モデルの徹底とドミナント戦略により、営業利益率20%前後、ROE 20%超という極めて高い収益性を実現している。 近年、成長投資から株主還元へ大きく舵を切り、2028年3月期までに配当性向を70%まで引き上げる計画を公表。高利回りな「債券代替株」としての性格を強めている。

  • 事業の柱:都立中高一貫受検・都立高校入試のena。私立難関向け「極」や合宿事業も展開。
  • 圧倒的な財務:自己資本比率 60.3%。無借金経営でキャッシュ創出力が極めて高い。
  • 還元方針:「配当性向70%」を目指し、QUOカード優待も再開。還元意識は業界トップクラス。

投資ハイライト: 【総合評価 A-】 高配当・クオリティ投資適格

  • 還元への強気姿勢: 利益成長に加え、配当性向を50%台から70%へ引き上げる計画。実質的な「累進増配」が期待される。
  • 脅威の資本効率: ROE 23.5%は日本企業平均を大きく凌駕。稼ぐ力が強く、配当原資の蓄積が速い。
  • 逆風下の構造改革: 高校無償化による「私立回帰」に対し、千葉・埼玉進出と私立コース強化で対抗。
  • 【結論】 成長性は鈍化傾向だが、4.3%超の利回りと強固な財務は「下値の堅い」投資先。インカム重視の長期保有に最適。
予想配当利回り (26/3期予)

4.37%

配当 103円 (計画ベース)

PER (26/3期予) / PBR (実績)

14.8

/

3.33

高ROEを反映しPBRは高めだが、PERは妥当。

ROE (自己資本利益率)

23.5%

業界平均を大きく上回る圧倒的効率
自己資本比率 (財務評価:SS)

60.3%

実質無借金・潤沢なキャッシュ

最重要指標①:配当トレンドと利回り

棒グラフの■濃い青色が期末配当■薄い青色が中間配当です。 過去10年間、一度も減配をせずに階段状の増配を継続しています。 また、点線は過去10年の平均利回り(約3.1%)を示しており、現在の利回りが歴史的高水準にあることがわかります。

※2026/3期は計画値。中間・期末の内訳は一部推定。

最重要指標②:EPS成長と配当性向の推移

EPS(1株利益)の成長に合わせて配当を増やしてきたのが過去のフェーズです。 今後は、EPSの成長が緩やかになっても、配当性向を70%まで引き上げることで、増配を維持する戦略をとっています。 ただし、純利益連動型であるため、将来的な大幅減益時には減配リスクがある点には注意が必要です。

最重要指標③:業績推移と営業利益率

売上高は長期的に右肩上がりですが、直近では「私立回帰」の影響で成長が鈍化。 しかし、営業利益率は約20%という驚異的な水準を維持しており、経営の質の高さが伺えます。 千葉・埼玉へのエリア拡大により、再び増収トレンドに戻れるかが今後の焦点です。

最重要指標④:買い時判断とボラティリティ

株価は長期で右肩上がりですが、足元は成長鈍化への警戒感から調整中。 (※チャートは楽天証券より引用)

リスク特性とサポート線

  • ボラティリティ(β値) 0.29

    市場変動の影響を受けにくい超ディフェンシブ株。

  • 株主優待 QUOカード 1,000円

    2025年3月期より再開。個人投資家への訴求力増。

理論株価と買い時判断

妥当株価 (PER 15倍基準)
2,500円前後
打診買い推奨 (利回り4.3%)
2,350円以下
全力買いゾーン (利回り4.5%)
2,280円以下

利回り4.5%水準は過去の強力な下値支持線。増配ロードマップを考慮すれば、2,300円近辺からの時間分散買いは極めて合理的です。

財務健全性:キャッシュリッチな盤石経営 (評価:SS)

前受金ビジネスによる潤沢なキャッシュフロー。有利子負債はほぼなく、金利上昇局面でも財務コスト増の懸念は皆無です。

指標数値 (26/3中間)評価
自己資本比率61.9%サービス業として驚異的。倒産リスクは皆無。
有利子負債実質無借金ネットキャッシュ・ポジティブを維持。
流動比率140%短期の支払能力も十分。前受金が多い構造的特徴。

SWOT分析:都立ブランドと私立回帰

S 強み (Strengths)

  • 都立中高一貫合格者数No.1のブランド
  • 営業利益率20%超の高効率な経営体質
  • 無借金・高自己資本比率の極めて強い財務

W 弱み (Weaknesses)

  • 都立受検への依存度が高く、政策変化に弱い
  • DOE未採用。業績悪化が即、減配に繋がる構造
  • 東京都外でのブランド認知度がまだ低い

O 機会 (Opportunities)

  • 千葉・埼玉エリアへの進出(50校計画)
  • 難関私立向け新ブランド「極」の展開
  • 高単価な長期合宿事業の拡大

T 脅威 (Threats)

  • 高校授業料無償化による私立回帰
  • 少子化加速による競争激化
  • 講師確保に伴う人件費の高騰

競合他社比較

社名 PER ROE 利回り 特徴
学究社 (9769) 14.8 23.5% 4.37% 都立特化。資本効率と利回りが群を抜く。
早稲田アカデミー (4718) 16.8 14.5% 2.20% 私立難関に強み。成長期待が高い。
ステップ (9795) 14.1 10.0% 3.70% 神奈川公立に強い。財務が非常に堅実。

結論:投資判断は「A- (長期保有推奨)」

学究社は、教育業界屈指の「稼ぐ力(高ROE)」「財務の強さ」を武器に、株主還元へのアクセルを全力で踏んでいます。 東京都の教育政策の変化という構造的な逆風はありますが、エリア拡大と私立シフトによる対策は着実に進んでいます。 「DOE(株主資本配当率)」を採用していない点はリスク管理上の注意点ですが、過去の配当維持実績は信頼に値します。 利回り4.3%超を確保しつつ、低ボラティリティな特性を活かして新NISA等で長期保有するのに適した「良質なインカム銘柄」と評価します。

評価カテゴリー別スコア

カテゴリー ランク 評価の根拠
株主還元 A+ 配当性向70%目標は野心的。DOE未採用分を割引。
収益性 S ROE 23.5%は国内教育サービスで最高峰。
財務健全性 SS 無借金かつ高キャッシュポジション。盤石。
成長性 B- 私立回帰への逆風があり、エリア拡大の成果待ち。

本レポートは情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。
※データは2025年12月27日時点のレポートに基づいています。

学究社は今、「成長の限界」という壁を「圧倒的な株主還元」で突破しようとする大きな転換点にあります。

直近の減収要因となった「都立から私立への回帰」は確かに無視できないリスクですが、無借金経営という盤石な財務基盤と、営業利益率20%を誇る高効率なビジネスモデルは健在です。DOE(自己資本配当率)を採用していないため、利益に連動して配当が変動する脆さはあるものの、経営陣が示した「配当性向70%」へのロードマップは、インカムゲインを重視する投資家にとって極めて強力な買い材料となります。

利回り4.3%超を確保しつつ、低ボラティリティな特性を活かしてポートフォリオの守りを固める。そんな「新NISAでの長期保有」にふさわしい銘柄としての実力は、依然として高いと言えるでしょう。


この記事が、皆様の市場理解の一助となれば幸いです。ただし、本記事は特定の金融商品の売買を推奨するものではなく、情報提供のみを目的としています。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任においてお願いいたします。

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